竹ちゃん

高校生の頃に焼肉屋さんでアルバイトをしていた。
その焼肉屋さんは夫婦で営業をしていて夫婦喧嘩の絶えない厨房だった。
オーナーが有名な焼肉屋での修業経験があり、味付けはなかなか美味く、賄いもすこぶる美味かった。
お客様も沢山と来店を頂いていたし、常連さんも多かったのを記憶している。
一度、僕がチヂミを焼いていたら天井にまで火柱が上がり、「わしの店を燃やす気か!!」とマスターに怒られたのを覚えている。
残念ながら、今は閉店してしまっている。

そんな夫婦喧嘩の絶えない焼肉屋でのバイト生活を楽しく花を添えてくれたのが竹ちゃんだ。
竹ちゃんはMr.Unisexの6歳年上で某有名私立大学の学生だった。
見た目もかっこよくチャラチャラした感じもなく、高校生のMr.Unisexからすれば、すごく大人に感じたが、何よりも面白い発言や生活スタイルやオシャレな服装が魅力的だった。

何も知らない高校生のMr.Unisexに竹ちゃんは色んな事を教えてくれた。
ある時、竹ちゃんが「クラブは面白いぞ〜。」
Mr.Unisex:「クラブってなんですか?」
竹ちゃん:「音楽が鳴り響いていてダンスをしながらお酒を飲んで女の子とおしゃべりする場所やん。」
Mr.Unisex:「音楽?女の子?おしゃべり?どんな女の子がいるんですか?」
竹ちゃん:「うーん、この前の女の子はピアスを何個開けてるの?って聞いたら、両耳と両乳首とアソコで合計5ヶ所ってな女の子がいたな。」
Mr.Unisex:「(汗)僕にはよくわからないです。竹ちゃん、ダンス出来るんですか?ジャンルは何ですか?ヒップホップ?ジャズ?ブレイク?」
竹ちゃん:「ダンスのジャンル?オリジナルダンスやないかい。」
Mr.Unisex:「(笑)オ、オリジナルダンス。」

ある時、仕事終わりに竹ちゃんの一人暮らしの家に招待された。
部屋にはおびただしい数のCDがあった。その殆どは60年代Rockだった。
竹ちゃんは60年代が大好きで音楽もファッションも60年代だった。
「俺は60年代しか聞かへんねん。例外で聞くのがNIRVANAだけやわ。」
「俺もこんな時代(60年代)に生まれたかったな」としんみりと語っていたのが印象的だった。

その時から芸術家を目指していたMr.Unisexに「芸術家を目指しているならこれぐらいは知っとかないともぐりやぞ!」と竹ちゃんと同郷の横尾忠則さんの作品集を見せてくれ、横尾忠則さんを教えてくれたのも竹ちゃんだし、アンディー・ウォーホルさんを教えてくれたのも竹ちゃんだった。

部屋には弾けないのにフェンダーのストラトキャスターがあった。
壁には「アメリカの永住権を取得していなかった」というジョンレノンの新聞記事の切り抜き。
お酒のボトルが沢山と並んでいた。バイクは部品が足りないベスパだった。
トイレの電球はピンク色だった。タバコはキャスターだった。

世間知らずのMr.Unisexからすると竹ちゃんはオシャレでかっこよくて何でも知っていて、人望も厚く、僕もこんなお兄さんになりたいと思った。

竹ちゃんの夢は自分のお店を持つ事だと言っていた。その為に就職も夢に近い仕事を探していたが悩んだ挙げ句、地元の西脇市役所の職員となった。

市役所の職員になる事について「世間の風に負けてもうたわ」と夢を諦めた事について、しんみり電話で語っていたのが今も忘れられない。

竹ちゃんの事だから、今も元気に過ごしてる事だろう。
竹ちゃんありがとう!

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