コグマの初出勤日をドキドキして出社したのを今でも覚えている。
前述したが、それまでは焼き肉屋の皿洗い、ラーメン屋の厨房、梅田かっぱ横丁にあった喰いもんや食いしん坊という居酒屋の厨房、阪神百貨店に入っていたアラスカというレストランの厨房、EHバンクという神戸のおしゃれなカフェレストラン(今は閉店)の厨房などの経験しか無く、店頭に立って接客販売というのは初めての仕事内容だったからだ。
希望と不安が入り混じった複雑な心境だったけど、胸の中は楽しみで一杯だった。
そごう西武百貨店内で働く場合は「トレーナー」という接客マナーを指導する社員によるセミナーが数時間用意されており、必ず受講しなければならなくて、それを受けないと売り場に立つことができない仕組みだった。
内容は挨拶のマナー、プレゼント包装のマナー、電話の受け方、とにかく沢山あり、面倒だった。しかし、ここでの経験がビジネスマンとしての一般的なスキルが身についたように思う。百貨店、ホテル、テーマパーク、有名料理店などの接客が素晴らしいと感じる事があるが、このようにしっかりとしたレクチャー機能が充実しているのであろうと思う。
セミナーが終わると初めて売り場に入り、そこで初めて一緒に働くコグマの先輩メンバーに会うことができた。面接をしてもらったハセヤン店長からターミンさん、ケンちゃん、ホン君、タナやん、そして僕と一緒に入社したクメちゃんを紹介してもらった。さすが、子どもに夢を与えるフロアで働いてるだけあって、みんなめっちゃ良い人ばかりで助かった。うん、なんとかやっていけそうだ!
初日はコグマの先輩社員であるターミンさんに色々と玩具屋としての基礎を教えてもらった。(ターミンさんは元阪急百貨店の玩具売り場の社員で退職後にたまたま知り合いだった店長のハセヤンに駅でばったり出会い、破綻したそごう神戸店の玩具売り場に異動になったハセヤンに誘われてコグマに入社した経緯を持つ超ベテラン女性社員)
まずは商品のカテゴリーだ。幼児(メリーなどの赤ちゃん用のおもちゃ)、男キャラ(だんきゃら)、女キャラ(じょきゃら)、フリクション(動力でうごく車のおもちゃ)、ぬいぐるみ、TVゲーム、カードゲームなどだ。商品の事ばかりではない。接客方法、商品の陳列、プレゼント包装など、意外と覚える事が多すぎて大変だと思った。しばらくして店長のハセヤンが「これ組み立てて!」って渡されたのが、当時、バンダイから発売されていたクラッシュギアだった。どんな商品かというと、ベイブレードとミニ四駆が合体したような戦うミニ四駆といった感じだ。私はガンプラとかプラモデルを組み立てるのは大好きだったので、こんな事で給料を貰えるのかと思うと感動が止まらなかった。今まで厨房で一所懸命になってマヨネーズを大量に作ったり、冷たい水で大量のご飯を炊いたりして体力的にしんどい仕事ばっかりだったけど、こんなに楽しくて面白い仕事があるなんて、まさに天職を得た気持ちだった。まだ働き始めて数時間だけど、遊びながら仕事をしてる感じがしてしばらく、感動が続いていた。
しかし、世の中そんなには甘くない。玩具屋は楽しい事ばかりではなかった。神様はちゃんと挫折も用意している。入社して間もない頃に私は忘れもしない百貨店の恐ろしさを味わうことになるのだ。